激・桃隆の徒然なる日記&雑記

日常の話やら趣味の創作の話やらを徒然なるままに語っていきます。

 

幸福と辛苦のアンビバレント<3> 

さて、久々のコレの続きです。
ほぼ一ヶ月ぶりですね……一体何をやっていたのかと(;´Д`)
しかも、長さの割には物語的に大した進展はないというね。
まだまだ全然序盤ですよ! 多分!

もし矛盾点や日本語的におかしな箇所などがありましたら
こっそり教えてくださいませ……ソッコー修正しますゆえ……。


拍手どうも有難うございました!


「着いたぞ」
 ルードとステラが辿りついた村は、緑に覆われた大地、清冽な小川の流れ、微かに聞こえてくる人々の談笑、といった自然豊かな田舎だった。
「わぁ……!」
 ステラは目を輝かせていた。その陶酔しきった顔は、彼女のこれまでの十数年という人生の中では無縁に等しかったゆえの羨望の的だった幸福そのものに満ち溢れていたものだった。
「……そんなに嬉しいのか?」
「え、ルードさんは嬉しいと思わないんですか?」
「…………」
 質問を質問で返すステラに対し、ルードは沈黙した。
「そんなことはともかく、お前はこの村に居座る気なのか?」
「え、えーと、えーと……」
「行く当てもなくどうする気だったんだ、全く」
 至極当然のルードの返答に、ステラは困惑した。さて、本当にどうするつもりだったのだろうか。人生の幸せをこの村で見つけるつもりなのか。しかし、そのためには色々と壁が立ちはだかる。
「住処はあるのかな……仕事はあるのかな……」
「まさか、そこまで俺が面倒を見てやると思っていたのか?」
 ルードは何だかんだでステラの世話を焼いているが、さすがに過剰に深く首を突っ込んだような真似はしないようだ。
 そんなこんなで村の入り口でしどろもどろしていたら、二人に気付いた村人と思しき女性が近寄ってきた。
「あらまぁ、あんた達、旅人さん?」
 何ともサバサバした、恰幅のいい中年女性である。
「そ、その、その……」
「まぁ、そんなところだ」
「へー! この村はいいところだよ、ゆっくりしておいき! 良かったら住んだっていいところだからね!」
 女性の大きな声が響き渡る。
「……!?」
 そして、物凄く今更といった感じで、ステラの容姿について、女性は渋い顔をした。
「あら……お嬢ちゃん、何なのこのぼろきれにしか見えない服! 髪だってボサボサじゃない!」
「えーと、それは……」
「銀髪の兄ちゃん! あんた奴隷商人かい! こんな年端も行かない女の子に対して、何てことを!」
「違う。俺はただ……」
「あんたは出ておいき! こんなろくでもない商売している男なんか、村に入る資格はないよ!」
「だから……」
 女性の一方的なルードへの罵倒に対し、ステラはいよいよ前に出た。
「ほ、本当に違うんです! 暴漢に襲われそうになったところを、この人が助けてくれたんです! こんな容姿なのはちょっと訳あって……とにかくこの人は何も悪くないんです!」
 ステラはルードの代わりに必死に弁明した。その甲斐あって、女性に真意が伝わり、
「ご、ごめんなさいね、お嬢ちゃんがこんなに必死に言うんだったら、本当なんだろうね。これまた失礼を、旅人さん!」
 と、何とか事なきを得た。
「……チッ」
 ルードは少々機嫌が悪くなったようだが、舌打ちだけで済ませた。
「さーてさて、本当すまなかったねぇ。でもさ、あたしはお嬢ちゃんの身なりだけはどうにも頂けないよ。お詫びとしてタダであたしの娘の着なくなった服を着せてやるから、ついてきな!」
「いいんですか!?」
「ついでに風呂にも入れてやるさね。疲れを取りたいだろ?」
「え、え……!?」
 女性とステラのやり取りを見ていたルードは、役目が終わったとばかりに、二人を一瞥してからすぐ横をスタスタと歩いていった。
「兄ちゃん、どこへ行くんだい」
「……宿屋だ。一週間ほど厄介になる」
「ちょっとお待ち! あんた、このお嬢ちゃんの保護者みたいなもんでしょ、傍にいてやりな!」
「そこまでの義理はない。あとはこの女の意思次第だ」
 あくまでサラリとこう言ってのけるルード。しかし、女性はこの態度が気に食わず、ルードの長い髪を手で捕まえた。
「何をする!」
「あーもーこの女泣かせ! 甲斐性なし! あんた将来ろくな親にならんよ!」
「はぁっ!?」
「美味い飯食わせてやるから、あんたもうちにおいで! ほらほら!」
「クッ……」
 女性の勢いに気押され、根負けしたルードは、渋々後をついていくことにした。その様子を見ていたステラは、笑いをかみ殺しているようだった。
 この男、女性に甘いというか、弱いらしい。


 中年女性の家は、いわゆるごく普通の民家であった。女性曰く、主人は遠くの町まで出稼ぎに行っていて、一人娘は少し前に嫁いだという。そんな訳で現在は女性一人暮らしのようだった。
 ステラは、風呂に入れてもらった後、その嫁いだ娘とやらの古着を着せられ、髪もセットしてもらった。すると、まるで先程までの姿が嘘だったかのように年頃の可愛い女の子になった。
「これが……私?」
 鏡を見たステラの開口一番はこれだった。
「うんうん、女の子はこうでなくっちゃね!」
 メイクアップしてあげた女性は至極満足気な様子だ。
 その間ルードは何をしていたかといえば、女性の甲高い喋り声に辟易しつつ、酷く不機嫌な様子で椅子にもたれていた。
(俺は、何故ここにいるんだ……何故この家で呆けなければいけないんだ……)
 本来この男は《漆黒の修羅》と呼ばれ、どんな戦士からも恐れられる凄腕の剣士である。なのに、ただのどこにでもいる中年女性に気押され、たまたま助けた元奴隷の少女の事実上の保護者として拘束されている。いや、物理的に拘束されている訳ではないから、嫌ならとっとと出ていってもいいはずなのだが、何故かそれをしない辺り、ルードという男は何だかんだで今の状況が嫌ではないのか、義理の延長線として渋々付き合っているのか、あるいはただの馬鹿なのか。
「兄ちゃん! この子の姿を見て惚れたかい?」
「あのなぁ……ハァ」
「ルードさん! 次はお食事にしましょ!」
「…………」
 ステラと女性は嬉々としてキッチンの前に立った。ステラは料理というものを張り切ってやるつもりのようだ。
 しかし。
「はいはい、包丁はこう持って、こうやって切って……」
「えーと、えーと……って、痛っ!」
「あらまぁ、怪我しちゃったじゃない! ねぇ、兄ちゃん!」
 不意に呼ばれたルード。
「は?」
「は、じゃないよ! 嬢ちゃんが指切ったのさ、傷薬ならそこのタンスにあるから、治療しておやり!」
「クッ……」
 迷惑だし面倒だ、と思いつつ、律義に薬を用意し、律義にきちんと治療してあげているルードに、修羅と畏怖される非情な剣士という本来の肩書きの面影はあまりない。
「すいません、ルードさん……」
「お前は、料理もしたことないのか?」
「はい……。料理は奴隷の仕事ではなかったんです」
「奴隷、か……」
「地獄のような生活から抜け出せたと思ったのに、普通の人が持ち合わせている生活力すらないって、私、ルードさんに出会っていなかったら、たとえ旦那様が雇った追っ手から逃れられたとしても……」
「旦那様とは誰だ? お前はどういった主人の奴隷だったんだ?」
「都市ウォルターに住んでいる、エドゥアルド様という大富豪……」
 そこまで呟いて、ステラの目から涙粒が零れ落ちた。
「……傷の手当てなら終わった。涙を拭け、そこの女に勘付かれると面倒だ」
「は、はい!」
 ステラは涙を拭き、キッチンへと戻っていった。
(都市ウォルターのエドゥアルドという男……恐らくエドゥアルド・レ・フィルアーチェのことか。あの屋敷の用心棒の仕事だったら昔したことあるな……。しかしコイツの存在は全く気付かなかった……)
 ルードは眉を顰めた。まさか昔の仕事先の関係者とこういった形で関わり合いになったことに少なからず思うところがあるようだ。それが、「だからどうした」とあっさり切り捨てられるような代物か、あるいは「あのとき何故気付かなかったのだろう」という多少の同情ゆえの悔恨かは、今の彼にその答えを出すまでにはステラへの想いの強さが足りなかった。
 そして、ルードがしばらく考え事をしている間に、料理が出来たようだった。
「ほら、ジャガイモやニンジン、玉ネギ、そして豚肉がたっぷりのシチューに、アツアツのご飯だよ! たんとお食べ!」
「る、ルードさん……頑張りましたよ、私!」
 ステラの怪我はどうやらあの一回だけで済んだようだった。彼女はやりきったとばかりの達成感に満ちた顔をしていた。
 席に着き、食前の挨拶をした後、三人は食事を始めた。
「…………」
 ルードは目を丸くし。
(……美味い)
 ただ一言、心の中で独りごちた。
 家庭の味。幼き頃より戦いに身を投じていたルードにとって、それはあまりにも新鮮だった。とにかく、貪るようにシチューと白米を口の中に投じていった。ルードがここまで食事に夢中になることは、これまでの人生の中で一体何回あったであろうか。
「美味しい、美味しい! 食べ物をこんなに美味しいと思ったことなんて初めて!」
 ステラもまた同じようで、歓喜の涙を流しながら食べていた。
「よく食べるねぇ。ま、いいことだけど、そこまで食べ物に飢えていたのかい?」
 女性は満足気であった。
「美味しく頂きましたー!」
「……頂いた命に感謝を」
 食後、高らかに挨拶をするステラと、ボソリと挨拶らしきことを呟いたルード。
「しかし、何故俺達にここまでするんだ? 人がいいにも程がある」
「やだねぇ、人情ってやつだよ! アハハ!」
「アハハハハ……」
 ルードにとってもステラにとっても、心地よい幸せの一時だった。あまりにも幸せすぎて、幸せすぎるのが却って申し訳ないとすら思うレベルで、言うなれば「アンビバレント(二律背反)」そのものであった。
 「食べること」というのは、人に与えられた共通の幸せなのだ。
「さて、さすがにこれ以上厄介になる訳にはいかないな……」
「……そうですね」
「何、あたしも久し振りに一人きり以外の食事ができて幸せだったさ! さすがにずっと世話してやる訳にはいかないけど、空家の案内ならしてやるよ!」
 まさかの女性の提案に、二人は目を見開いてびっくりした。
「や、やだ、やだ、まさかの二人暮らし……!?」
「馬鹿言え。俺は宿でゆっくりするつもりだ。一週間分の宿泊費ぐらいならあるからな」
「わ、私が、嫌いなんですか……?」
「……あのな、男と女が一つ屋根の下で寝泊まりすることが一体どういうことか、分かっていて言っているのか?」
「?」
(チッ、まるっきりのガキだな、ここまで来ると呆れすら通り越す……)
 ルードはまたも眉を顰めた。
「あれま、兄ちゃんはここに住む気はないのかい?」
「俺は元々少しの間この村で静養するだけのつもりで来た、あとはまた流れるまでさ」
「じゃ、この嬢ちゃんは?」
「……この村に送り届けてやった以上の義理はない」
「ルード、さん……」
 ステラは酷く寂しそうな目をした。この少女の境遇を僅かに察していることから、さすがに居た堪れなくなったのか、
「…………。この村に滞在している間、顔を見せる程度ならしてやる。それだけだからな」
 と、ルードは少しばかりの思いやりを見せた。
「ありがとうございます! ルードさん、やっぱりいい人だったんですね!」
「…………」
 そのとき、女性はふと首を傾げた。
「やだ、そういえばここまで関わったのに自己紹介すらしてなかったねぇ。そこの兄ちゃんはどうやらルードっていうみたいだけど、あんたは?」
「あ、ステラ、といいます」
「ステラ! いい名前だねぇ! あたしはジルっていうんだ、また何かあったら頼っておくれ!」
「はい!」
「…………」
「ステラちゃん、やっぱりしばらくあたしが面倒みてやるよ、家の紹介はその後にするからね! ルード君はやっぱり宿屋でいいのかい?」
「問題ない」
「ふぅ……。何はともあれ、おやすみ!」
「ルードさん、おやすみなさい!」
「ああ」
 挨拶もそこそこに、ルードはジルの家を出ていった。
 いつの間にか、夜空に星が瞬いていた。ルードはしばしの間、顔を上げ、その輝きに見入ったのだった。
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category: 小説

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