激・桃隆の徒然なる日記&雑記

日常の話やら趣味の創作の話やらを徒然なるままに語っていきます。

 

キセキ 

さて、数ヶ月ぶりの小説です。
原作はカトレア2。若干ネタバレ含みますので要注意!
今後は小説もそれなりに書いていきたいですね。
何せ、まともな規模の小説で完成させているのは、
「偽りのベトレイヤー」以来全くないという体たらくorz
うーん、ヤバい;
なお、今回の小説は、某アーティストのあの曲とは一切関係ありません。
では、興味ございます方は続きよりどうぞ!


拍手どうも有難うございました!


 轟々とした響きが木霊する。このハイテクノロジーの建物は、無数の爆発と共に、徐々に崩れていっている。
 《始末屋》であるアイリス・ケルトナーとその相方であるリッシュ・ステュアートは、この崩れゆく建物の中にいた。急いで抜け出さねばならないのだが、足に深手を負っているアイリスを担ぎながらでは、リッシュとてとても建物の崩壊までに脱出は間に合いそうもない。それを察したアイリスは、リッシュを突き放し、一人で脱出しろと言った。リッシュだけを生かし、自分は死ぬつもりなのであった。
 しかし、そんなことは、長年連れ添ったパートナーであるリッシュは納得しようもなかった。無理にでもアイリスを担ごうとする。そんなリッシュに、アイリスは再び一言呟いた。
「……カトレアがね、どうもアンタのことが好きみたいでさ。未来の旦那が、死んじゃいけない……」
 カトレア。《始末屋》仲間であるフェイシズ・ヘイルムハートが、かつて仕事帰りに拾った孤児の少女である。アイリスやリッシュとも顔馴染みで、仲が良い。
 リッシュは驚愕した。その少女から、想われているという現実に対し。
 リッシュという男は実に軽い性格で、女性関係に節操のない、いわゆる尻軽という人種である。それは本人も自覚しており、自覚している上で、たびたびカトレアへ対してもからかっていた。しかし、その冗談は、積もり積もって、カトレア自身が本気になってしまったという結果を生んだのだ。
 事態を察したリッシュは、アイリスの思いを汲んだ。それがアイリスの遺志。彼の数いるどんな女性より、女性として想っていた、アイリスの思いを。
「アイリスーーーーーー!」
 その悲嘆なるリッシュの声が、アイリスが現世で聞いた、最後の声となった。


「おい、いくら何でも呑みすぎだ!」
 行きつけのバーで自棄酒を呑むリッシュを、フェイシズは必至に窘めている。リッシュとて酒に弱い訳ではないが、アイリスを亡くしてから数日経ってもこの調子が続いており、昔馴染みのフェイシズは大層気に病んでいた。
「畜生……オレはどうして……どうして姐御を見捨てたんだよ……」
「おい!」
 あの図太い神経を持つリッシュがこれほどまでになるとはと、フェイシズとしても放っておけなかった。毎晩毎晩酒に付き合い、同じような愚痴を聞き、潰れたところで家まで連れていく――。フェイシズとしては思い切り殴りつけたいという衝動もあったが、かつてフェイシズ自身も妻を失ってからしばらくはこんな調子だったこともあり、ためらわれる部分が残っているようだ。
 女性というのは、かくも男性が生きる上での支柱であることを体現している。
 まだアイリスの死のことを教えていない、カトレアという少女も含め。
「あーあ、また潰れたかい」
「すまない、マスター。ここのところ毎日迷惑をかけていて……」
「いいさ、こういう客は慣れている。今晩もツケといてやるから、家まで連れてってやんな」
「……いずれ、金は全額コイツに支払わせる」
「ハイハイ」
 人のいいマスターのお陰で助けられているが、果たしてこのままでいいのかといえば、そんなことは決してない。早いうちに、リッシュには立ち直ってもらって、《始末屋》という裏稼業の覚悟を理解させねば、とフェイシズは思っている。フェイシズも、伊達にリッシュより一回り年上ではないのだ。
 自分とそう体格の違わない男を背負い、フェイシズはバーを後にした。


 リッシュを送っていった後、フェイシズは自宅へと帰ってきた。「ただいま」と言っても返事はない。もう〇時近くの深夜である、子供のカトレアは早々に寝てしまっていた。それでも律義にフェイシズの分の夕食は作ってあったのだが、既に料理は冷めきっていた。
 フェイシズは気がかりになった。いい加減、カトレアも事態に薄々勘付いているのでは、と。しかし、本当にアイリスの死を教えたら、カトレアはどれほど取り乱すだろうかと想像すると、フェイシズはなかなか二の足を踏めないのだ。アイリスは、カトレアにとって理想の女性であり、また、いい友人関係として付き合いがあったのだから。
「俺も、未だに信じられんよ。あのアイリスが、死ぬなんて」
 気風のいい姉御肌で、男顔負けに戦場でフェイシズやリッシュを牽引していた、アイリスという女傑が、まさかミッション中にヘマをして命を落とすとは――。だが、これもまた、《始末屋》という仕事の現実なのである。常に死と隣り合わせの、危険な稼業。フェイシズも、アイリスだけではなく、色んな《始末屋》稼業の人間の訃報を聞いてきた。それは、身を以て体験した、自身の妻も含んでいる。
「…………」
 フェイシズは、冷めた料理にフォークを刺した。食べたその料理は、冷めきっていても美味しかった。


 命とは、まるで陽炎のように、不確かなヴィジョンである。
 いずれ、消える。必ず、消える。それは今か、明日か、あるいはずっと先か――。
 今を生きているのは、幾星霜をも流れる時の中の、僅かな「キセキ」に過ぎない。そして、人と人との巡り合わせは、無数の分母の中の僅か数個しかない、これもまた「キセキ」なのだ。
 フェイシズは思った。リッシュも、アイリスも、カトレアも――そんな「キセキ」の巡り合わせなのだ、と。
 夢まどろみ、彼の視界には、失ったはずの妻の姿があった。


「…………」
 フェイシズは殺気立っていた。目の前には、つい昨晩まで自棄酒飲みまくってネガティヴな愚痴を吐いていたリッシュが、何事もなかったかのようにケロリとして、
「リッシュ君、華麗にふっかーつ!」
などとヘラヘラ笑っていたのだから。
「リッシュ、フェイから聞いたわ。アイリス……死んじゃったんだね……」
「え、フェイ、カトレアちゃんに話したのかよ!」
 刹那、リッシュの頬にフェイシズの拳が飛んだ。
「あーーーのーーーなーーー! どれだけ俺が貴様に世話焼いてやったと思っている!」
「ちょ、ちょっと、フェイ!」
「イッテェ~……って、まぁ、そんだけのことをやったわけだしなぁ、オレ」
「……自覚はあるようだな」
 リッシュの健康な歯が失われなかったのが奇跡な殴打だったが、まるっきり身体的ダメージは負っていないようだった。
「リッシュ……アイリスが死んじゃったせいで、ずっとふさぎ込んでいたんだよね……。うん、私もショック。信じられないわ」
「カトレアちゃん……」
「さすがに詰め寄られたからな、言わざるを得なかった……。案の定、滅茶苦茶取り乱されて、宥めるのに大変だったぞ」
 その場にいる全員が、目を閉じた。
「さて、とりあえずようやく立ち直ったようで何よりだが……その、立ち直ったきっかけは何なんだ?」
 リッシュは緩い笑みを浮かべ、
「いやー、それがなぁ、夢の中で姐御に思いっきりボッコボコにされて罵声浴びせられたからさぁ、アッハッハ……」
と、軽い調子で言った。
「ゆ、夢がきっかけだったの!?」
「『見損なったよ! アンタはそんなに惰弱な男だったのかい! こうなったら毎晩化けて出て、アンタの性根を徹底的に鍛え直してやるからね!』とまで言われちゃあ……なぁ。姐御のしごきはマジで地獄なんだよ、ハァ」
 顔を顰めたリッシュを見て、フェイシズとカトレアは思わず笑った。
「アイリスらしいわねー」
「まぁ、アイリスほどのド根性だったら、あの世でも逞しく過ごしているだろうさ」
「そりゃそうだな、ハハハ!」
 リッシュはすっかり立ち直ったようだったが、散々ツケた、あのバーでの酒代の支払いが待っているという現実は、あまりシャレになっていないレベルのものである。


(カトレアちゃん……)
 無邪気に笑う少女を見て、リッシュはアイリスの言葉をかみしめた。
 リッシュは、カトレアをずっと守っていくと誓った。リッシュの中では、まだカトレアは一人の女性という対象ではない。いや、そういう概念を超越している一つの想いである。
 確かに、未来のカトレアはリッシュの妻となるのだが、それはまた、遠い先のお話なのだった。
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category: 小説

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