激・桃隆の徒然なる日記&雑記

日常の話やら趣味の創作の話やらを徒然なるままに語っていきます。

 

偽りのベトレイヤー ~2~ 

おー、「修羅の道」と比べてハイペースですな。
という訳で、続きです。今回はちょっとだけ長めー。
一応、3話ぐらいで終わらせる予定だったのですが、
どうも5話ぐらいかかってしまいそうな雰囲気です><
大した作品ではないんですけどねぇ。

まぁともあれ、続きよりどぞ!


 ラディは道すがら、何度もその手の商売の女性から声をかけられた。
「あ、あの、別にいいですので……」
 その度に、このようにしてお誘いを断っていた。そして、声をかけた女性からは残念そうな顔をされた。それはそうだ、せっかくのお客をみすみす逃しているのだから。
「うーん、おれ、そんなに引っかけやすいような雰囲気をしているのかな……」
 ラディは頭を掻いた。そんな彼とて、悪い容姿はしていない。むしろそれなりにいい部類に入っている。娼婦も女だ、出来るだけ容姿が整っている男性を相手にして、日頃の不満を昇華したいのだろう。
「と、ともかく、あの人が言っていた店にそろそろ着きそうかな」
 このように言いながら歩いていると、先程の占い師が言っていた『店』に近づいてきた。しかし、ここは風俗店がひしめくストリート。その『店』とやらも、ラディが拒絶反応しそうな雰囲気を醸し出していた。それだけだったらまだいいのだが……。
「げ、げぇ、男娼専門店……だと!? い、嫌だ、おれにはそんな趣味はないぞ! 女でさえ興味薄いのに、ましてや男相手だなんて……!」
 ラディは顔が青ざめた。何故、あの占い師はこの店を指名したのであろうか。
「く、くそ、引き返してもう一回あの人に訊いてみようっと!」
 その刹那。
「んー、お客さん? やだなぁ、せっかくここまで来ておいてさぁ」
 何やら、高めのキーの男性の声が、店の入り口から聞こえてきた。
「げ……」
 捕まってしまったと、硬直した顔でラディは後ろを振り返った。
「フフフ、ぼくと一晩ご所望なんでしょ? 照れないでさぁ、ん?」
 そう言った男娼の姿――見るや否や、ラディは驚愕した。
 黒くて長めの髪の毛、鋭くて紅い瞳、整った顔立ち。
 そう、まるで。
(と……父さん……!?)
 ラディの父・エレノスのような容姿ををしていたのだ。
「あれ? きみ、どうしてぼくの顔をじっと見ているの? まさか、ぼくに一目惚れした? アハハ」
「…………」
 そうか、とラディは合点が行った。
 あの占い師の言った事は、もしかしたら――。
「……一晩いくらだ?」
 男娼の青年は一瞬目を丸くして。
「フフッ、やっぱりイケる口だったんだね。最初からそう言えばいいのにさぁ」
 彼は、ラディを店の中へと招き入れた。


「んーと、一応料金は前払いね。三百ゴールドでどうかな。ぼくにしては破格な方だよ?」
 ニコニコしている男娼の青年とは裏腹に、ラディはベッドに腰掛け、神妙な面持ちで青年を凝視していた。
「どうしたの、払わないの? じゃなきゃサービスはしてあげられないなぁ」
「……おい」
 ラディの声はくぐもっていた。
「お前の事だな。おれと所縁のある人物というのは」
 青年はその言葉を聞き、何の事やらと不可思議そうな顔をした。
「どういう事?」
「あっちの通りで商売をしている占い師の女から聞いた。ここで、おれと所縁のある人物に出会えると。それは……お前なんだな、という事だよ」
「え、え、え、ぼくにはサッパリなんだけど。詳しい事を話してよ」
 いつの間にか、青年はラディの隣に腰掛けた。
「まず、お前の名を聞かせてもらおうか」
 ラディは青年を睨みつけた。
「それは……源氏名じゃなくて本名、って意味だよね。いいよ別に。ぼくはリディルっていうんだ。この店で男色を売っているのさ」
「どういう経緯でこのような商売をしている?」
「ああ……そーだねー……。ぼくは、娼婦とお客の男性との間に生まれた、いわゆる父なし子(ててなしご)ってやつさ。母さんはぼくを堕ろさずに出産してさ、それを機に娼婦をやめちゃった。それから生活は貧困まっしぐら、ぼくはもう相当昔から色を売って、生活を支えているんだよ」
「そうか。母親は健在か?」
「うん。今は占い師をしていて――って、もしかして、きみ、母さんの案内でこの店に来たの?」
「!?」
 ラディは驚愕した。まさか、あの占い師とリディルは親子だったのかと。
「…………。で、お前の母親は、娼婦時代の客の話ってあまりしなかったのか?」
「んー、基本的にあまり聞いていなかったけど、ただ、一人だけ、とても変わった客がいたと聞かされていたよ。母さんは人の心を読む力を持っているんだけど、何か、心の中が凄くドロドロしていたんだって。えーと、どう言えばいいのかなぁ……何らかの恐ろしい負の感情に取りつかれた修羅みたいだったって母さんは言っていたような」
 復讐、か。
 ラディは真っ先にこう断定した。
「で、ちょっとバラしちゃうと、多分その彼がぼくの父親だって話なんだよねぇ。ぼくができた時期的にちょうどその頃だって事だし、何より、ぼく、容姿がそっくりなんだってさ、その人と」
「!」
 刹那、ラディはリディルの胸倉を掴んだ。
「な、何するの!?」
「そいつは……エレノスという名前じゃなかったか?」
「エレノス? あの〝赤眼の悪鬼〟の事? いやぁ、まさかぁ……って、そこまでは分かんないけど」
「……!」
 ラディは手を放し、リディルを突き飛ばした。
「え、え、え……?」
 困惑するリディルを尻目に、ラディは舌打ちした。
「リディル……お前はな……おれの父さんにそっくりなんだよ……」
「え……」
「おれの父さんの名前も、エレノスっていうんだよ……!」
「!? ま、まさか、きみ……」
 瞬間、ラディは店の外へと飛び出していってしまった。
「お、お客さん!? ねぇ、待ってよ! きみには色々聞きたい事が……!」
 その声は、ラディの元へは届いていなかった。


 外は、いつの間にか雨が降っていた。
 その中を、ラディはひた走る。胸中に複雑な思いを抱いて。
(父さん……! 父さん、あんたって人は……!)
 ラディは泣いているのだろうか。雨でびしょ濡れの顔からは分からない。
 息を切らして、建物の壁に拳を打ちつけて。
「父さんの……裏切り者ーーーーーッ!」
 その声と共に、ラディの視界はいつの間にかフェードアウトした。


 次にラディが目を覚ました場所は、何故か見た事のある部屋であった。
「ここは……」
 ラディは起き上がったが、妙に頭がぐらついた。
「あぁ、まだ寝てなきゃ駄目だよ」
「!」
 この声、この顔は、リディルだった。
「いやぁ、あれから捜したよ。そしたらね、ちょっと離れた場所で倒れていたきみを見つけてさ。何で倒れているんだろうと思ったら、凄く熱があったんだ。多分、疲労と激しい雨に当たっていたせいだね」
「…………」
「まぁ、ゆっくり休んでいてよ。まだ昼時で、商売時間じゃないからさ」
 ラディはリディルのお言葉に甘える事にした。昨晩は感情的になってしまってリディルに悪い事をしてしまった、という反省の念も込めて。
「なぁ……リディルは何歳だ?」
「えっ?」
 ラディからの不意な質問に、リディルは少し驚いた。
「えーと……今年で二十歳かな」
「そうか、そのぐらいかなぁとは思っていた。おれは二十五歳。という事は、お前はおれの腹違いの弟なんだな」
「そうだね。ぼくの父親が本当にエレノスさんだとしたら」
「本当も何も、それで確定だろ」
 ラディは寝相を変えた。
「ねぇ、そういえば、きみの名前は?」
「あ、そういえば言っていなかったな。おれはラディ。しがない冒険者だ」
「ふーん。これでまた一歩距離が縮まったね、兄さん」
「に、兄さん……!?」
 この言葉を聞いて、ラディは妙に頭へ血が上ったような気がした。
「あらら、照れ臭いの?」
「そ、そんな訳あるかっ!」
 ラディは顔をリディルから逸らした。
 それからしばらくお互い沈黙が続いた。
「おれ……」
「ん?」
「おれ……おれ……父さんは母さんを裏切って他の女と寝た、と思ってしまった。だからつい、昨晩はリディルに突っかかったんだ。で、正直今も、父さんは裏切り者、という考えは完全に消えてない……」
「兄さん?」
「本当は違うのに……父さんが母さんを裏切るはずなんかないのに……こんな事でモヤモヤするなんて……。そして、リディルの存在にまだ違和感があるなんて……おれ……心狭いよな……」
 ラディは、過去の戦いで心身とも成長したと思っていた。そして、父を心から信じていたとも思っていた。しかし、こんな事で一瞬にして信頼が瓦解したなど、自分はどうして実の親を信じてやれないのだろうと自責の念に駆られていた。よりによって、自分の親へ対し『裏切り者』呼ばわりをするなどとは――。
「あまり自分の事を責めないで、兄さん」
「! 何でおれの考えている事が分かるんだよ!? まさか、お前も母親と同じで……」
「ぼくは人の心なんて読めないさ。ただ、血を分けた兄弟の考える事ぐらい、何となく察せられる程度だよ」
「リディル……」
「ぼく、母さんが母さんだからさ……兄弟を持つなんて無縁だと思っていたけど、何かいいね、こういうの。こんな感情、初めてだよ」
「!」
 ラディは思い返した。自分にも、血は繋がっていないとはいえ、姉がいる事を。
 きっと、リディルはおれが姉ちゃんに抱く感情と似たようなものを持っているんだな……おれに対して。
 そのようにみなし、自分を見つめるリディルに自身を重ねたラディだった。
「ん、兄さん、随分と顔色が良くなってきたじゃん」
「え? あー……そういえば、確かに体が楽になったような気がするな」
「うん、実は、兄さんがうなされている間に、体調不良によく効く薬を飲ませたんだよ。かろうじて飲みこんでくれてホッとしたなぁ」
「そうか。ありがとな、リディル」
「フフッ!」
 辺りを和やかな空気が包んだ。
 その時、外からやけに狂ったような叫びが聞こえてきた。
「!?」
「大丈夫だよ、兄さん。落ち着いて」
 何の事やらと思って、ラディは叫び声の一部始終を聞く事にした。
「リーディールーたーん! ボクだよボク、ジョニーだよぉ! ねぇ、ボクとリディルたんの仲じゃないかぁ、ボクの屋敷においでよぉ~! 美味しいご飯だったらいっぱいあるからさー、ボクをずっとムチでいたぶってぇ~ん! あと、ロウソクもおねがぁーい!」
 ラディは耳を疑いたくなった。
「何……これ……」
「この店の常連さ……。どうやらジョニーという名前の金持ちらしくて、やたらとぼくを気に入っているマゾでね……。最近、ぼくを買い取ろうと躍起なんだよねー。気にしないで、この店のマスターがいつものようにあしらうから」
「へ、へぇ……」
 そんな会話をしている最中も、
「あんた、いい加減にしな! 今はまだ開店前なんだよ!」
「チックショー! フンだ、ボクはまた来るからね! リディルたんはボクのものさ! あまりボクを怒らせると、怖いんだからねっ!?」
「ハイハイ、シッシ!」
 というやり取りが聞こえてきて、どうやらジョニーという男はこのまま去っていったようである。
「……一体何だったんやら」
「彼の押しに負けて本名を教えた途端にコレなんだよねぇ。この手の商売には付きものさ、こういうのって。悩んでいたらキリないよ」
「お前も苦労しているんだな」
「ありがと、兄さん」
 ラディは、これ以上ここにいるのも迷惑かと思い、
「じゃ、おれ、そろそろ行こうかな。本当、リディルには世話になった」
「体の方は大丈夫?」
「あー、うん、全然平気。心配するなって」
 などというやり取りを交わし、旅支度を整えて、ここから出る事にした。
 二人は外に出て、店の入口で別れを惜しんでいた。
「じゃ、また来るよ。ただ、おれは男色には興味ないからな」
「うん、無理強いはしないよー」
「あ、そうそう、金なんだけど……」
「ぼくと寝た訳じゃないから、薬代の五十ゴールドだけでいいよー」
「えっ!?」
「強いて言うなら、兄さんと会えた事だけでも十分な報酬だからね」
 ニコニコしてそう言い放ったリディル。
「ハハッ、じゃあな、リディル」
「また来てねー!」
 外はすっかり晴れていた。水溜まりが残っているストリートを、ラディは歩いて過ぎていった。
「リディル、お客でもない相手をあまり店に入れるんじゃないよ」
「ごめんごめん、マスター。なるべく自重するからさぁ、ね?」
「フフッ、それにしてもあんた、随分と晴れやかな顔をしているじゃないか」
「ちょっと色々とあったんだよー、アハハ!」
 スラム街の中の風俗店前とは思えない、明るい談笑が響き渡った。
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category: 小説

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